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pipal 渋谷宇田川 スタッフブログ

2017-08-04-Fri

ソムリエ 鈴木亮介、生産者を訪ねて。 vol.8

旅も5日目の朝。
ディジョンのホテル、今日はブルゴーニュを離れシャンパーニュへ。
なんですが、朝予定より早く目覚めたのでちょっと寄り道したいところが。


そうです、『ドメーヌ・ド・ロマネコンティ』通称『D.R.C.』。
言わずと知れた世界最高のワイナリーです。
アポイントも取ってませんし、寄る予定もなかったのですがミーハー気分でちょっと見学に。


美しい。
そして畑の土がフッカフカです。今回はナチュラルなドメーヌしか回っていないので良い畑ばかりを見させていただいておりますが、やっぱり少しスペシャルな感じはありますね。パティシエが土を作っている様な、そんな雰囲気があります。

で寄り道を済ませて、いざシャンパーニュ最南端のモングー
『ジャックラセーニュ』の元へ。

モングーの丘を登って進むと(めちゃくちゃ景色がいいです一面のブドウ畑)丘の上にジャックラセーニュのドメーヌが。
当主エマニュエル・ラセーニュが出迎えてくれました。(すいません写真が少ないです。)挨拶をさせていただいて早速醸造所を見せてくれました。


出ました垂直式プレス。とても大きい、そしてとても古いものだそうです。
こちらもグラヴィティシステムを採用しており、絞った果汁は床を抜けて下の階へ流れます。


発酵はステレンレスタンクで、レトロな垂直式プレスとモダンなステンレスタンク、ギャップに見えますがより良いワインにするためのより良い選択をしっかりとしている事が伺えます。


こちらには、ノンヴィンテージ※1 のブランドブラン※2 用のアッサンブラージュ※3 の比率が書いてあります。貴重な情報。
シャンパーニュでは専門の職業があるくらいアッサンブラージュは重要な事なのです。なのですが、聞いたらエマニュエルさんご自身でなさってるそうで。
「アッサンブラージュはとても重要だし、とても難しい事だと思うんですけど、自分でやっちゃうんですね。」
「そうだよ、テロワールの事も葡萄の状態もタンクの中の事も全て私が把握しているんだから、とても簡単だよ。」
ってサラッと言ってのけます。う〜ん、カッコイイ。
さらに案内していただくと、地下に地下にと下っていきます。グラヴィティシステムなので、行程毎にワンフロア降りる感じです。途中の通路で壁が削ってある箇所がありました。エマニュエルさんはその穴に触れて、
「チョークだ。」
「ワオ。」
「モングーは石灰土壌なんだ、ここまで深い所も全てチョークだ。それが葡萄にミネラルを与えるんだ。」
すごい、こんな深いところまで石灰なんだ、そして葡萄樹の根はこんな深いところまで伸びているという事か。「チョーキー」って言葉が印象的です。

それから、リビングへ行ってテイスティングをする事に。
「デゴルジュマン※4 をしてみせよう。ここでは冷凍はさせないんだ。」
「へ、?凍らせない?そんなの聞いた事ないよ。澱はどうするの?どういう事?」
「まあ、やってみせるから。」
王冠をしたままの瓶内二時発酵が済んだボトルを持ってきました。
テラスにあるオーク樽をくりぬいた物にボトルの頭を突っ込みます、そして栓抜きで勢いよく抜栓!
 "ブシュッ"
「以上だ。」
「え?何が?何なに?」
「ボトルの中を見て。クリーンだ。」
「本当だ、何?澱はどこ行ったの?」


開けた王冠の裏についていたキャップを見せてくれました。なるほど中にドロッとした折がくっついている。そしてくりぬいた樽の内側にも飛び散った澱が付着していました。
「それだけ?」
「そうだよ。」
「少なくない?」
「さあ、どうかな。」
何と、デゴルジュマンがたったのこれだけの作業で済んでしまうなんて。ワインの教科書の話と随分違います。
「まず750mlのスティルワインを造る、そして瓶内二時発酵時にワインの容量は少しだが増加するんだ。そしてデゴルジュマンで今のようにほんの少しの澱を飛ばす。その後ボトルの中にあるのは750mlのワインだ。それで完成、何も足さない。ドザージュ※5 もいらない。」
「えー、それだけでいいんだったら皆んなそうすればいいじゃん!」
「そうだね、ワインを凍らせてダメージを与えるなんて意味がわからないよ。」
「すごい!何で皆んなこうしないんですか?」
「さあ、他の人の事はわからないよ。
ただね、葡萄を造る時、収穫する時、私は入念に葡萄の粒まで選んでいる。クリーンで健康な葡萄しかプレスされない、だからジュースもとてもクリーンなんだ。他の人のワインで同じ事が可能かどうかはちょっとわからないな。」
さらりと涼しい顔で言ってのけます。やばい、エマニュエルさん益々かっこいい。


そして、僕をテーブルへ着かせてくれてシャンパーニュを注いでくれます。
僕はもう興奮しちゃってて、
「何、このキュベは何の何?ミレジム?ノンミレジム?」
エマニュエルさんはゆっくりとした動作で人差し指を自身の唇の前に立て、それから手のひらを仰向けにしてこちらに差し出します。(何も聞かなくていいから、まずは飲んで)と。
呆然とする僕を後に、奥のキッチンへ行き何やらカチャカチャと。


僕はブラインドしなくちゃ、と必死で香りをとります。
すると、優しくも厚みのあるサウンドでジャズが!
奥のエマニュエルさんがプレイヤーを再生したらしい。
しっかりと選んで構成されたサウンドシステムであろう音質。心地の良い選曲。
ゆったりと戻ってきたエマニュエルはテーブルを挟んだ僕の向かいの椅子に座り、
自身のグラスにも同じワインを注ぎ、足を組み、その液体の香りをとると少し口に含み、
確かめるように口の中で回してから喉に流します。
無言のまま僕の方を見て、落ち着いた眼で軽く微笑むエマニュエル。
ズキューン、惚れました!かっこよすぎますエマニュエル!もうその立ち振る舞いはジョージクルーニーも真っ青です。
そして僕の出した答えは「ラヴィーニュドモングー※6 、ミレジム、2008」

「...............。違う、これはラヴィーニュドモングー、ノンミレジムだ。」
何と、僕が一番よく知っている奴じゃないか、興奮しすぎたか、この環境にやられたか。
「ただし、抜栓してから3日経ってる。」
「普通のラヴィーニュドモングーよりもっとボリュームがあるように感じたのはそのせいですか?」
「その通り、抜栓してからまだまだ膨らむんだ。すぐに飲まない方が、より良い。」
何とシャンパーニュは開けたての方が良くないのか?しかも泡も全然ヘタってない。
それからさっきのデゴルジュマンしたてのワインも飲ませてもらって、やっぱりボリューム感が違う。
ナンテコッタ。


もうやられっぱなしの僕。計算されたサウンドのジャズ、モングーの丘を見下ろすテラス。
ゴージャスだけど派手ではない心地の良い内装のリビング。


テラスの外、モングーの丘、視界に広がる葡萄畑。


それからも次々と色んなキュベをテイスティングしながら彼のフィロソフィーを紐解いていく。
とにかく葡萄を大切にすること。健全な葡萄なくして健全なワインは生まれない。
栽培はもちろん選果も重要。そしてプレスもあの垂直プレスだからこそ余計な雑味は絞らない、ただ真っ直ぐに潰す事で健全なエキスのみを抽出できる。そしてその葡萄にミネラルを与えるのがこのモングーの土壌のチョークでありテロワールである。ここモングーは本当に最高の場所なんだ。
あとは余計な物は要らない。


少しだけ生産している、ロゼ用のピノノワールもいただきました。
テラスに出て、エマニュエルさんと一緒にモングーの丘を眺めます。
完璧すぎる、この人は一言で言うならば(エレガント)だ。
「あなたのワインにはあなたのフィロソフィーが詰まっています。シンプルで葡萄とテロワールを大切にするからこそ現れるフィネス。そしてあなたのワインにはとびきりのエレガンスがある。僕が思うにそれはきっとあなたがエレガントだからだ。僕が何人かの生産者とあって話を聞いてわかってきた事がある。その造り手のワインにはその人のフィロソフィーはもちろんだけど、それだけではなくてその人のキャラクターも現れるんだ。」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいけど。」
「あなたの生活は完璧ですね。この美しいモングーの丘、美しいリビング、傍に美しくて最高のシャンパーニュ。そしてジャズ。」
「音楽は重要だね。」
「エレガント。そしてパーフェクト。」
もうノックアウトされちゃって興奮しちゃって最後の記念撮影まで忘れてしまって。
やられっぱなしの僕は情けない限りですが、とっても貴重な体験になりました。
エレガント!



※1 ノンヴィンテージ:ワインにその葡萄の生産年が記載されないもの。多くのシャンパーニュは色んな年のワインを混ぜて作る為ヴィンテージ表記はされません。フランス語でノンミレジムとも言います。逆に生産年表記のある単一年シャンパーニュはミレジムと呼びます。
※2 ブランドブラン:白葡萄だけで造るシャンパーニュの事、白の白です。シャンパーニュはシャルドネ(白葡萄)、ピノノワール(黒葡萄)、ピノムニエ(黒葡萄)の3品種の使用が認められていてブランドブランはシャルドネしか使ってないという事になります。逆に黒葡萄しか使わないシャンパーニュはブランドノワールと呼ばれます。
※3 アッサンブラージュ:色々なワインを混ぜてワインを造る事を言います。モエエシャンドンがいつ飲んでも同じ味わいなのは同じ葡萄なのではなくて、色々な年のワインを混ぜて同じ味わいを作り出しているからです。シャンパーニュにはアッサンブラージュ専門の職人がいて格式の高い職業だとされています。
※4 デゴルジュマン:澱抜き。シャンパーニュは普通のスティルワインを造った後、瓶内でもう一度発酵をさせてガスを生み出します。この後に現れる酵母の死骸などの澱を抜く作業です。通常は瓶を逆さまにしボトルの口の部分に澱を集め、その部分だけを凍らせて抜栓し凍った澱の塊を取り除きます。
※5 ドザージュ:糖分添加。リキュール(甘くシロップのようなもの)を添加する事。通常シャンパーニュは瓶内二時発酵後は酸味が強すぎるので最後に糖分を添加して味の調整をします。  糖分を添加しないシャンパーニュはノンドザージュ、ドザージュゼロ、ブリュットナチュール、などと呼ばれます。
※6 ラヴィーニュドモングー:ジャックラセーヌのシャンパーニュの定番キュベの名前。 
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